中級日本語文法を教えるためのアイデア集

             ◆ココ出版より発売中◆

アイデア集作りを振り返る

 コロナ禍になって、新刊セミナーや研修がオンラインで開催されることが増えましたね。家に居ながらにして遠方のセミナーに参加できるのはありがたいことです。セミナーでは教材についての情報はもちろんですが、著者の方から語られる出版のきっかけや執筆中の裏話などにも興味深く耳を傾けています。

 一方で私たちはtwitterなどで教材内容についての情報発信は細々と続けてきましたが、製作の裏側についてはあまり発信してきませんでした。ということで、刊行半年のこのタイミングで出版までの道のりを書き留めておきます。私たち3人の個人的な備忘録のようなものになるかもしれませんが、お付き合いいただけたら嬉しいです。

 

教材作りのきっかけ

 2011年の東日本大震災後、日本語学校では学習者層が変わり、非漢字圏からの留学生が多くなりました。それと同時に、今までと同じやり方では授業がうまくいかないという悩みが生まれました。特に中上級。文法の導入をして、意味の理解もちゃんと確認しているのに、短文作成練習をすると、どこをどう直したらいいかわからないような文が出てきてしまう。自分のこれまでの授業が、いかに学生の力に頼って成り立っていたのかを思い知らされ、猛省しました。どうしたら授業がうまくいくんだろうと悩み、試行錯誤の日々でした。その中で、練習に工夫が必要でないかと思うようになりました。

 

教室活動を考えるときに心がけたこと

・学習項目を含むインプットを増やす
・イメージしやすいよう身近な話題を取り入れる
・自己表現できるような活動にする
・例文の内容自体について考えてもらう(自身との関連性や雑学的知識を問う)

 実は、教材作りを始めた当初からこのように明確に考えていたわけではなく、様々な教室活動を模索していく中で、方向性が定まりました。こんなふうに考えるようになったのは、教室での経験からだけでなく、書籍や論文、勉強会などからの影響も大きかったと思います。3人それぞれが吸収してきたインプット、経験がつながったような感じです。

 

足掛け8年

 出版の当てもなく始めた教材作りですが、刊行までに足掛け8年かかりました。「8年も…!」と思われた方もいらっしゃるかもしれません教材の構成・タイプ分けの見直しや例文の精査、どうすれば「活動の進め方」が伝わりやすくなるか、など頭を悩ませました。他にもいろいろありまして、ずいぶん時間がかかりました。振り返ってみると、いくつかキーポイントがあったように思います。

・ブログ開設
日本語教育学会支部集会の「交流ひろば」出展
・サタラボ登壇
・出版決定
・日本語教員LT会での発表

 交流ひろば、サタラボ、LT会と計3回、教材を紹介する機会がありました。これらへの参加は私たちにとってはちょっとした冒険でした。準備など大変な面もありましたが、結果的には皆様から直接フィードバックをもらえる貴重な機会となりました。いずれも、他の方とのやり取りがきっかけで、「やってみようか!」となったものです。きっかけをくださった方々に感謝するとともに、自分たちのやっていることを周りに発信すれば、それが次につながる可能性があるということも学びました。             

 8年の間には、なかなか思うように事が運ばないこともありました。そんな時励みになったのは、授業でアイデア集の活動に取り組む学習者の生き生きとした表情です。また、試用版を使ってくださった先生方や勉強会などでお会いした方々からのコメントにも支えられました。直接お会いすることはなくても、ブログ読者の皆様からの「拍手」などにも力をいただいておりました。長期間、地道に教材作りを続けられたのは、関わりのあった方々のおかげです。あらためて感謝申し上げます。

 

出版後

 今年2月に無事刊行されましたが、コロナ禍ということもあり、出版後一度も3人で集まれていません。打ち上げもできていません。そこは残念ではありますが、ツイート内容などについての相談はオンラインで続けていて、3人で意見をまとめたものを発信しています。この原稿も3人で話し合って書き上げました。

 また本を手にとってくださった方々のSNSへのコメントを見ては、3人で喜んだり、気づきを共有したりしています。自分達の想定していなかった活用法などを知ることができ、新たな発見とともに、このアイデア集の可能性を感じています。コメントのなかには、学習者の取り組みの変化などについて言及してくださっているものもあります。これまで私たちも数多くの教材の恩恵を受けてきましたが、拙著も皆様の日本語指導のお役に立てていると思うと嬉しく感じます。

 

協働について

 Twitterのプロフィール写真は某ファミレスのカプチーノの写真です。本も形になったことだし、写真を変えようかとの話も出たのですが、あえてこのままにしています。私たちのミーティングは、たいてい週末にファミレスで行っていました。3人でいろいろな例文を考える作業はとても楽しく、笑いの絶えないものでした。午前中から始めて、気がつけば外が暗くなっていたなんてことも(もちろん、おいしいものもたくさん頂きました!)。私たちにとってあの時間も宝物です。 

 著者3名、タイプの異なる者が集まりました。それぞれ得意とすることが違い、それを生かしてこのアイデア集作りができたと思っています。あくまでも私たちの場合ですが、計画遂行、言語化スキル、PC関連、自由な発想、細部までの目配り、外と繋がる力、などはそれぞれ、得意とする人がいて助かりました。また三者三様ゆえ、「できない」「無理」と思うポイントも異なっていました。誰かが「それは難しいのでは?」と言っても、別の誰かが代案を出してくれたりして、前に進むことができました。年齢もキャリアも異なる3人ですが、目標を共有し、率直に意見を言い合える関係、これからもずっと大切にしたい仲間です。

 

 私たちのアイデア集作りの振り返りは以上となります。これからもこのアイデア集が多くの方の手元に届き、日本語指導・日本語学習の一助となることを願っております。